不動産融資 暴走のツケ
島田明夫氏(仮名、38)は昨年9月、投資用のアパート・マンションの販売業を廃業した。2009年に会社をつくり、累計で1300億円もの物件を会社員らに売ってきた。都心の一等地に月額家賃450万円のオフィスも構えた。
カギは買い手の客への融資付けだった。60人の営業員に各2〜3人の客を担当させ銀行の審査を通りやすいよう資料を改ざん。預金通帳の残高を増やし、潤沢な資金を持つ客に見せかけた。家賃や入居の履歴にも手を加え満室で回る物件に仕立てた。契約書の売買金額も水増しした。
不正な手口を使った相手は不動産融資で暴走したスルガ銀行だけでない。メガバンクのほか、北陸や東北、関東甲信越の上位地方銀行、政府系からも融資を引き出した。一人の客に10億円を貸した地銀もあった。だが、スルガ銀行の不正融資問題で他行も慎重になり会社は行き詰まった。
島田氏は「数千万円の自己資金を持つ会社員はそういない。改ざんしなければ融資が出なかった」と語った。不正な融資が拡散している実態が浮かんだ。
アパートの施工・管理を手がけるTATERU(タテル)。18年12月27日、建設資金の借り入れ希望者の預金残高を水増しするなどの改ざんが350件見つかったと発表した。改ざんは18年8月末に表面化。15年12月以降の案件を4カ月かけて調査してきた。
多くの客は山口県の西京銀行から建築資金の融資を受けた。実は4カ月の調査中も、西京銀行はタテル案件に融資を続けてきた。
日本経済新聞が登記簿などを調べたところ、18年12月の融資実行分だけで少なくとも36件あった。調査中の4カ月では全国で60件以上のタテル案件に土地などの購入費用として平均で1億円を貸していた。
西京銀行は融資の継続について「8月31日以降は新規の受け付けを止めた。それ以前に結んだ契約分は改ざんがないことを直接確認して融資を実行した」と日本経済新聞に説明した。西京銀行の「不動産業(物品賃貸業含む)」向け融資残高は18年3月期に2925億円となり、4年前の1.8倍。融資全体の4分の1を占める収益源になった。 アパート・マンションの建築資金は地主や富裕層を対象にした事業融資が主流だった。スルガ銀行は00年代半ばごろから会社員ら給与所得者に投資用不動産への融資を増やし始めた。大都市圏の不動産を担保に多額の融資ができるとあって他の銀行も参入した。
投資用不動産向け融資の残高は30兆円規模。日銀が異次元緩和を始めた13年から1割増えた。不動産投資熱と物件価格の上昇は銀行の積極的な融資姿勢と軌を一にしている。一方、返済能力を示す資料を原本で確認する基本動作を怠り、不正を見抜けなかった銀行。業者につけいる隙を与え、不正融資もまん延した。
将来金利が上がったり、空室が増えたりすれば、不動産の価格は下がる。巨額の融資は不良債権になりかねない。すでに市況は18年から変調を見せ始めた。臨界点は近づいている。
『日本経済新聞』2019年1月17日朝刊1面「地銀波乱(4)」
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